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最高裁判所第三小法廷 平成6年(行ツ)34号 判決 1994年4月19日

京都市中京区夷川通釜座東入亀屋町三四五番地の三

上告人

目黒允

右訴訟代理人弁護士

高山利夫

籠橋隆明

吉田隆行

小川達雄

村松いづみ

佐藤克昭

竹下義樹

小笠原伸児

京都市中京区柳馬場通二条下る等持寺町一五番地

被上告人

中京税務署長 佐々木哲久

右指定代理人

村川広視

右当事者間の大阪高等裁判所平成四年(行コ)第一八号更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成五年一一月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人高山利夫、同籠橋隆明、同吉田隆行、同小川達雄、同村松いづみ、同佐藤克昭、同竹下義樹、同小笠原伸児の上告理由について

本件推計課税においては推計の必要性及び推計の合理性を認めることができ、本件各更正処分に違法はないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨はいずれも採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 園部逸夫 裁判官 可部恒雄 裁判官 大野正男 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

(平成六年(行ツ)第三四号 上告人 目黒允)

上告代理人高山利夫、同籠橋隆明、同吉田隆行、同小川達雄、同村松いづみ、同佐藤克昭、同竹下義樹、同小笠原伸児の上告理由

第一 所得税法一五六条の解釈適用の誤り

一 原判決には推計課税を規定した所得税法一五六条の解釈適用に誤りがあり破棄を免れないと思料する。

二 所得税法一五六条は、税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の現状によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額(その者の提出した青色申告書に係る年分の不動産所得の金額、事業所得の金額及び山林所得の金額並びにそれらの金額の計算上生じた損失の金額を除く。)を推計して、これをすることができると規定する。

しかし、所得税法一五六条が規定する推計課税は、実額課税によりえない場合にやむを得ず用いられる補充的課税方法であり、推計の必要性がある場合に限り許されるものと解すべきあるとともに、推計課税が適法として是認されるためには、推計の方法が合理的でなければならない。

従って、推計の必要性及び合理性は所得税法一五六条の内容をなすと解され、推計の必要性がないにもかかわらずなされた推計課税、合理的でない推計課税は無効である。

この点、原判決は、以下に述べるとおり、右推計の必要性及び推計の合理性に関する解釈適用を誤り、ひいては所得税法一五六条の解釈適用を誤ったものである。

第二 推計の必要性

一 右に述べたとおり、推計の必要性がないにもかかわらずなされた推計課税は無効であると解すべきところ、本件では推計の必要性はなかったものである。

二 原判決は、第一審判決と同様、上告人は、被上告人の部下職員が税務調査のため上告人方に臨場した際、第三者の税務調査への立会いを要求し、右第三者らとともに調査理由の個別具体的開示に固執する等して、税務調査に協力しなかったことが認められると認定し、本件において、上告人の本件係争各年分の所得税について推計課税をする必要性があったことが認められると認定した。

三 しかし、推計の必要性は、一定の時点においてのみ判断されるべきものではなく、税務調査の全過程において課税当局が社会通念上当然要求される程度の努力を尽くして調査対象者の協力を求めたにもかかわらず、結果的に調査に対する協力が得られなかった場合はじめてその存在が肯定されるものと解するのが相当である。

この点、本件においては、上告人の本件係争各年分の所得税調査を担当した被上告人部下職員は、昭和六一年一〇月一三日から同年一二月四日までの間六回上告人方に臨場したものの、上司である中島統括官から、上告人が民主商工会に加入していることを知らされ、上告人に臨場日時を事前に連絡しないよう指示されていたため(第一審第一〇回千井証言調書一八丁以下)、うち四回は上告人不在であり、上告人と対面したのはわずか二回であった。しかも、被上告人部下職員は、上告人と同人方で対面した昭和六一年一月一三日、同年一二月四日の二回の臨場の際には上告人に対し何ら税務調査のための質問をしておらず、一二月四日の臨場の際には、上告人以外の第三者が居合わせたことを理由に、上告人が準備していた資料について提示すら求めることなく数分間で調査を打ち切り帰っている(第一審第一一回千井証言調書六丁以下、同第一四回原告本人調書一一丁裏)。

上司の指示に従い、被上告人部下職員が事前連絡をしないまま上告人の調査に臨んでいる以上、得意先や外注先回りのため不在がちな上告人に対面できなかった原因が被上告人にあることは明らかであり、わずか二回の対面調査をもって社会通念上当然要求される程度の努力を尽くしたとはとうてい言えないことは明らかである。その上、一二月四日の臨場の際には、被上告人部下職員は、上告人が資料を準備していたにもかかわらず、その提示を求めることもなく、わずか数分で調査を打ち切っている。

このような本件調査の全過程を考慮すれば、上告人が調査に協力しなかったと評価することは誤りであり、本件においては、推計の必要性が認められないと言うべきである。

第三 推計の合理性について

一 前述したとおり、推計課税が適法として是認されるためには、推計の方法が合理的であることが必要である。そして、この推計方法の合理性は、推計の基礎事実が正確、確実に把握されていることが必要である。

従って、推計の基礎事実を正確、確実に把握せずに行った推計課税には合理性がなく、違法無効である。

二 原判決は、外注費等を斟酌せずに行った上告人の本件推計課税は違法とはいえないと判断した。

しかし、上告人は昭和五八年度について、原判決添付別表甲2の2記載の外注先を用い、同五九年度について同別表甲3の2、3記載の外注先を用い、同五九年度について同別表4の2、3記載の外注先を用いて手描友禅業を営んだことを主張、立証した(甲第一号証ないし九六号証)。

これに対し、被上告人は本件推計課税にあたり同業者を抽出するにあたって、事業専従者数を考慮したのみで外注先の有無はまったく考慮していない(第一審被告第二準備書面)。しかも、被上告人、上告人が被上告人選定の同業者について、外注先の有無及び外注先の数、雇人の給料賃金の額及び外注費(工賃)の額を明らかにするよう求めたにもかかわらず(第一審原告第二準備書面)、右事実をまったく明らかにせず、外注の多寡は収入金額が類似していることによって十分考慮されていると主張したのである(第一審被告第三準備書面)。

右の諸事実に照らせば、被上告人は推計の基礎事実を正確、確実に把握することなく本件推計を行ったことは明らかであり、原判決は推計の基礎事実を正確に把握しないままなした本件推計の合理性を肯定したものというべきである。

また、原判決は、手描友禅業の業態において外注費等の経費の支出の相違は同業者の平均値による推計事態の合理性を失わせる程顕著なものと認められないと判示するが、その根拠はまったく示されていない。むしろ、被上告人が選定した同業者(第一審被告第二準備書面別表三の二以下)の算出所得率には約二倍の格差があるが、これは明らかに外注費等の多寡が反映していると見るのが合理的である。

従って、外注費等を斟酌せずに行った被上告人の本件推計課税は違法とはいえないとする原判決の判断には、推計の合理性の判断を誤ったものである。

三 さらに、原判決は、上告人が、本件推計課税の方法について、同業者の平均所得率を用いるより、業態の変化のない上告人の後年分の所得率を用いる方がより正確に上告人の係争年分の所得金額を規定することができる旨主張したのに対し、これを排斥した。

しかし、上告人が後年分の所得率を算出するため使用した帳簿類によれば(甲第九七号証ないし五五五号証)、外注費が売上金額に占める割合は平均四二、三三パーセント、外注費以外の経費が売上金額に占める割合は平均二七、八七パーセントであり、経費総額が売上金額に占める割合は平均七〇、二〇パーセントとなる。従って、その平均所得率は被上告人が採用した同業者の平均所得率を明らかに下回る。

これに対し、原判決は、右帳簿類の正確性は確認できないと判断しているが、被上告人が本件推計の合理性を立証するものとして提出した乙第四ないし一五号証がたんに当該年度の売上金額、経費額、算出所得金額が記載されているにすぎないことを対比すれば、右帳簿類の正確性、信用性は十分担保されているというべきである。また、原判決は、右帳簿類には、上告人の事業遂行上必要なものか否か不明な支出を含み、上告人の家事費ないし必要経費への算入が認められない家事関連費にあたるとも窺われるものがあると認められると判示するが、右判示が具体的に何を指摘してのことかまったく判然とせず、その根拠も明らかではなく、仮に原判決の指摘する点が窺われるとしても、きわめて小額であって、右帳簿そのものの正確性、信用性にさしたる影響を及ぼすものではない。

従って、原判決は上告人主張の本人比率を排斥した点においても本件推計の合理性判断を誤ったものである。

以上

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